あらすじ
時代は明治に変わって数年。
東京の大店の娘の菊乃は女だてらに髪を切り、袴をはいて男に交じって私塾に通っています。
破天荒な娘を心配した父親に結婚相手を決められてしまいます。
結婚相手は明治維新で職を失った元・忍びの清十郎でした。清十郎は昼間から酒を飲むような一見ダメな人間ですが、それも能ある鷹は爪を隠す忍びの心得でした。結婚せずに学問のしたい菊乃は清十郎と契約として偽りの婚約をします。
念願の女学校に入学した菊乃ですが根っからのトラブルウメーカーで周囲にはいつも事件が絶えず、偽りだった二人の関係はいつしか変化していきます。
レビュー
男性(50代)
主人公の菊乃は髪を切り、男のような恰好をして過去の古い風潮から抜け出そうとしていますが、本当は好奇心と探求心が強いだけの普通の女の子です。
学問がしたいというだけで普通の女としての生き方からはみ出し、本来の優しさや女の弱ささえ見せることが出来なくなって苦しむ姿がいじらしく感じます。
主人公の菊乃の時代の波に揉まれながら自分の信じる道を進もうとする姿も魅力的ですが、何といっても婚約者の清十郎の、普段は昼行燈、しかしいざという時の忍びの術を駆使してき菊乃のピンチを救う時をのギャップが何とも言えずにカッコイイです。
他にも維新の時代を生き抜いた元薩摩藩士槙や、会津で籠城を経験して婚約者を失った女学生の桃井、同性愛者で国にいられなくなった英国貴族の少年ランスなど、明治初期の時代ならではの人々の悩みや苦しみを抱える姿が魅力的です。
少女漫画らしく恋愛がテーマの根底にありますが、出てくるのはじれったいカップル(未満)ばかりです。
主人公の菊乃は清十郎への好意を素直に表現する事もありますが、本来が天然ボケな所がある為にアプローチが下手です。
清十郎は自分を偽り、自分で自分に言い訳する事に慣れすぎていて、菊乃を失うことを何よりも恐れているのに、その思いさえも演技からきているものではないかと疑うモノローグが入るほど恋には臆病です。
薩摩と会津という宿敵だった槙と桃井も出会いは最悪だけど段々惹かれあっていくというお約束が美味しいです。
菊乃と清十郎との一番ドキドキしたシーンはコミックスの8巻で、毒物の入った菓子を食べてしまった菊乃が人前で吐く事が出来ずに我慢しているのに気付いた清十郎が自分の手にティーポットのお湯をかけて菊乃の口に手を突っ込んで吐かせる場面です。
明治の男なので口では優しいことを言ったりはしないけれど、火傷することなんて何でもないという行動に愛を感じました。幕末と西南戦争の間という時代設定で、激動から激動の間のどこか緊張感のある時代の人々の暮らしが事件の合間にさりげなく描かれています。蘊蓄好きで読み応えのあるマンガがお好きな方にはおすすめです。妻に借りて読みましたが男性でも読める少女漫画だと思います。